見てきましたっ!! 期待に違わず、素晴らしかった!
実は原作は読んでないんです。いいに違いない、とは思っていたんだけど、恩田陸さんの文体がちょっと苦手なもので。だから、大まかなあらすじだけの予備知識で臨みました。ただし、「おはよう日本」でやっていた松岡茉優さん・松坂桃李さん・石川慶監督のインタビューはしっかり見たし、あちこちの紹介記事も読んでいた。
何が素晴らしかったって、音楽が、これ以上望みようがないぐらい見事だった。まず、演奏・作曲を担当するメンツがすごい。河村尚子・福間洸太郎(ごめんなさい、この人だけ知らなかった)・金子三勇士・藤田真央の各氏がピアノ演奏担当。そして、「春と修羅」の新作書き下ろし。この作品を映画化する、と聞いた時、真っ先に思ったのが「『春と修羅』どうするんだろ?」ということだった。読んでないけど、新作課題曲である「春と修羅」が重要な役割を担っていることは知っていたから。その作曲を藤倉大さんが引き受けられたと聞いて、「これは製作陣、本気を出してきたな」と思った。このメンツに音楽パートを引き受けてもらって、下手な映画は作れないでしょ。相当プレッシャーだったんじゃないかな。
2月にこの音楽担当メンバーが発表された時のそれぞれのコメントが、こちらのページに紹介されている。金子さんだけちょっと異質なんだよな。他の人はみな、原作に則って、音楽に詳しくない人でも受け止められるようにうまくコメントされているんだけど、金子さんは「プロコフィエフの2番は難曲で、自分の演奏がどう映像になったか楽しみ」と、そりゃそうなんだけどそれって今言う話か?的なコメントをされている。でも私は金子さんのこういうちょっとピンボケな感じが好きです。
実はだいぶ昔に、岡崎の「コロネット」に金子三勇士さんが来られて、ソロコンサートをされたんですよ。コロネットは小さなホールなので、演奏者と聴衆の距離が近い。そういうコンサートで、金子さんは MC もされたんだけど、選曲の理由とか、演奏上の技術的なこととか、けっこう細かいことを思い入れたっぷりに語るので、聴衆は「?」という雰囲気になっていた。でも、話している金子さんがすごく楽しそうなんですよ。あれ以来、金子さんのファンになっている。CD やコンサートを追っかけするほど熱心ではないけど。
映画の話に戻ると、河村尚子=栄伝亜夜=松岡茉優というのも、すごいキャスティングだった。河村尚子さんって、小柄だし、顔も可愛らしい印象じゃないですか。でも、演奏はすごくダイナミックで、フルオケと渡り合って一歩も引かない、豪腕でねじ伏せるような迫力がある。そのパワーがあるから、繊細な表現が逆に生きてくる。
映画では、迷いを感じさせる予選(弾くシーンはない)、少し覚醒のきざしを見せる二次予選(「春と修羅」のカデンツァ)、出番の直前に再びやってきた深い迷いを振り切って、完全覚醒する本選(プロコの3番)。河村さんの演奏と、松岡さんの演技の両方が、大きな振り幅を持っているからできた表現だと感じた。
あと、本選で藤田真央=風間塵=鈴鹿央士が弾いたバルトーク3番もすごく良かった。バルトークってもともと、生涯戦い続けた人じゃないですか。しかも、この曲を書いた時はもう死にかけてた。だから、曲想は明るいはずなのに、どこかに「陰」を感じてしまうんですよ。でも、塵くんのバルトークにはそういうのがなかった。軽やかで楽しげなバルトーク。全曲聴きたい!
福間洸太郎=高島明石=松坂桃李にも一言触れておかなくちゃ。本選には進めなかったけど、「生活者の音楽」は敗北してない。あなたの「春と修羅」は、アカデミックな音楽家には届かなかったかもしれないけど、地べたに生きる人たちにはちゃんと届いていた。そのことが逆に明石に伝わって、彼に勇気を与えてくれたらいいなと思う。