知立リリオコンサートホールで開かれた「舘野泉ピアノリサイタル」に行ってきた。ホールは小さいながら美しい内装で、客席の傾斜が大きくて後ろの方からもステージが見やすいし、音響も良い感じだった。ただ、周辺の看板などに使われているグラデーションのイメージカラーは趣味が悪いし、建物の一階が百円ショップというのもいただけない。
プログラムは、「タピオラ幻景」(吉松隆)、「スケッチ・オブ・ジャズ」(谷川賢作)、休憩をはさんで「シャコンヌ」(バッハ/ブラームス)、「前奏曲・夜想曲」(スクリャービン)、「ゴーシュ舞曲」(吉松隆)。最初はこちらがうまく入って行けず、舘野さん調子悪いんかなーなどと(失礼にも)思ったりもしたのだが、「スケッチ・オブ・ジャズ」の最後の曲あたりからハマりだした。バッハ/ブラームスは熱演、スクリャービンは今日のベストショットだったかも(特に前奏曲)。ゴーシュ舞曲も「おっ」と息をのませるところがいくつもあって、見事だった。アンコールは2曲、「アヴェ・マリア」(カッチーニ/吉松隆)、「アイノラ叙情曲集」より「モーツァルティーナ」(吉松隆)。最後の曲の前に、舘野さんが「もともと左手のために書かれた曲ですが、今日は少し右手も添えてやってみます」と話され、聴衆はいっそう盛大な拍手を送った。
舘野さんは、楽屋から出てきてお辞儀をしたあと、ピアノの前に座るとすぐに演奏を始める。他の演奏家がよくやるように、聴衆のざわめきが収まってホール全体に静寂が行き渡るのを待つことをしない。なぜかはわからないが、自分が聴衆を支配しているような状況をあえて避けているのだろうか、などと想像してみた。そのせいかどうか、クラシックの演奏会にありがちな、聴衆が試されているかのような緊張感を感じさせない、穏やかで素敵な2時間だった。
帰りの知立駅で、たむろしている高校生をほとんど突き飛ばしそうになりながら電車に飛び乗る。乗ってから気がついたのだが、途中に乗り換えがあるため次の電車でも結局家に着く時間は同じなので、この電車に慌てて乗る意味は全然なかった。せっかく舘野さんから穏やかな気持ちを分けてもらったのに、ホールから出たとたんにいつものせかせかした人間に戻ってしまったなあ。