「音楽で祈りを捧げる」シリーズの第2弾です。バッハの「ファンタジーとフーガ イ短調 BWV904」をやってみました。
あまり演奏されない曲だと思います。私は一度だけ実演を聴いたことがあるのですが、それはなんとデパートのレストランフロアの生演奏 BGM でした。プロのピアニストのお仕事だったのか、音大生のアルバイトだったのかはわかりません。クリスマスソングの合間にこの曲を弾いてらした。とても品のある演奏でした。2001年12月24日の夕方に、名古屋栄の松坂屋のレストランフロアでこの曲を演奏されていたピアニストの方、お元気でしょうか。
この曲は、音大の試験とかで課題曲として課されることがあるみたいですね。特にフーガはめっちゃ弾きにくいし、かなり綿密なアナリーゼが必要なので、試験課題としては好適なのかもしれません。下の譜例はフーガの最後の主題提示のところですが、第1主題と第2主題が両方右手で、しかも対旋律(テノール)をところどころ右手で一緒に弾かないといけない。バッハのクラヴィーアフーガの中でも技術的な難度は相当高いんじゃないかな。
話が前後しますが、ファンタジーはバロックの協奏曲形式です。冒頭のテーマがリトルネロで、主調-属調(ホ短調)-下属調(ニ短調)-主調の順に現れます。
その間にエピソードが3つあります。3声部に減り、旋律の動きが少し多くなります。第1エピソードは下の譜例のように、「C-B-C」という刺繍音の動機が中心です。
第2エピソードは8分音符の順次進行、第3エピソードは8分音符の跳躍進行が中心。綿密に計画を立てて組み立てられていることがよくわかります。ただし、曲想の変化はあまり顕著ではなく、全曲を通して禁欲的で透明な音楽です。
フーガは、2つの主題が別々に展開される二重フーガ。第1主題はソプラノ-アルト-テノール-バスの順に現れます。跳躍が多く、決然とした意志を表す主題です。
第2主題はまったく対照的で、動きの少ない半音階進行です。対旋律は16分音符で跳躍進行を持ちますが、これを第1主題の16分音符と同じように弾いてしまうと、違いがぼやけてしまいます。今回は、ここはノンレガートで弾いてみたけど、どうだったかな。
4分音符で半音階進行しているので、和音の動きが複雑になります。よく分析して調の動きを読み取らないといけません。58小節目の1拍目でどうも困りました。半拍ごとに「ホ短調の I の第1転回→ V の第1展開→ I の基本形」と動いているのはわかるんだけど、テノールが「AC」となっているので、1拍目前半の和音がよく聞き取れません。勢いでなんとなくごまかしてしまいました。
本格的なフーガに DTM で取り組んだのは久しぶりだけど、めちゃくちゃ情報量が多いから大変ですね。テーマをとにかく大きな音で鳴らせばいいというものでもなくて、他の声部に特徴的なメロディーが出てきたら、そちらをちゃんと聞かせないといけない。それと同時に、楽曲としてまとまりがないといけない。手で弾くのと比べて制約は少ないけど、楽に作れるわけではないなと改めて思いました。