COP26絡みで、アンモニアを燃料にする話をよく聞くようになりました。
【“アンモニア燃料船”開発の現場】
— NHK おはよう日本 公式 (@nhk_ohayou) November 4, 2021
船舶の温室効果ガス削減に向けて、燃やしても二酸化炭素が出ない「アンモニア」を燃料にして動くエンジンの開発が始まっています。
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いやまあ確かに、アンモニアは炭素含んでませんから、燃やしても二酸化炭素は出ませんよ。でも、二酸化炭素を出さずにアンモニア作れるんですか? アンモニアは窒素と水素を直接反応させて作るけど、ものすごいエネルギー消費しますよ? 水素を作るのにそもそもエネルギーが必要な上に、現状では窒素と水素の反応(ハーバー・ボッシュ法)は「発熱反応なのに大量のエネルギーの投入が必要」という、エネルギー収支の点からはとても厳しい技術です。これは、窒素と水素の反応の活性化エネルギーが非常に大きいためです。現在ハーバー・ボッシュ法が実用的とみなされているのは、アンモニアが肥料の生産に使われるからでしょう。「余分なエネルギーを投入してでも、農業の生産性を上げる」ことが優先されてきたからです。アンモニアを「エネルギー源として使う」ということだと、話はぜんぜん違ってきます。
日本は、産業界と政界が一丸となって、「水素・アンモニア推し」になっているように見受けられます。日本企業の強みとか、地政学上の資源確保の状況とか、いろいろな現状を踏まえた上での判断でしょう。そこに文句は言うつもりはありません。「化石賞」をもらった話も、グレタさんにディスられた話も、別にどうでもいいです(どちらも要するに「政治的なパフォーマンス」ですから)。でも、純粋科学の視点から見ると、水素・アンモニアが将来有望な方向であるとは、どうしても思えないのです。アンモニア製造の活性化エネルギーを下げる革新的な方法が開発されたら、日本は一躍トップランナーになれるでしょう。でも、それってハーバー・ボッシュの時代からずっと研究されてきた案件ですよね? 今さら画期的な技術なんて見つかるのかな。
なんか日本の科学技術政策って、純粋科学から見た「そもそも論」を軽視する風潮がずっと続いていますね。政治家はもちろん、大企業の幹部の方々も、ご覧になっているのは「現在〜10年後の技術」ぐらいで、100年後の見通しは立てておられないように感じます。結局は、ご自身が存命中の社会の動きにしか関心がないんじゃないでしょうか。これが、学術行政などについても「基礎研究を軽視する」ことにつながっているのだと思います。
アンモニアを燃料として使う話をするんだったら、「エネルギー効率が極端に悪いこと」と「農業生産との競争になること(=世界の食糧事情を悪化させること)」は必ずセットで論じて欲しいなと思います。それを認めた上で、なおかつアンモニアを推す、というのであれば、それはそれで一つの考え方として尊重します。問題点を隠すのはよくありません。NHKしっかりしてくれ。