今日の中日新聞サンデー版は、「元素周期表150年」でした。
解説は玉尾皓平先生。「人類は今、歴史上最も美しい周期表を手にしています。」で始まるこの気品に満ちた一文、「美しい周期表」にふさわしい美しい解説文だと思います。
「人類史上最も美しい周期表」の意味するところは、現在認定されている元素が118番までで、第7周期のちょうど終わりに達しているということ。既知の元素の最大のものが、周期表の1周期の終わりと一致していたことは、今までに一度もなかったことなんですね。
超重元素を合成して性質を調べる、という研究は、宇宙の果てを探求する研究に似ている。それは、まだ誰も見たことのない世界にたどりつくための営みだ。超重元素の探索には、二つの意味があると思う。一つは、原子核物理学で予測されている「安定の島」付近で、半減期が数日以上の超重元素の同位体が存在するかもしれない、という推測を実験的に検証すること。もう一つは、このような超重元素について、われわれが現在知っているような化学の原則が成り立つのかどうかを検証すること。
一つめの点については、今まで合成された原子核はまだ中性子数が足りないので、異常に長い半減期の同位体はまだ実現されていない。二つ目の点については、重い元素は半減期が短く量(原子数!)も足りないので、化学的性質を調べるには至っていない。このことから、超重元素の研究はまだまだ長い道程が待っていることがわかる。
ただ、複雑な思いを抱く部分もある。「〜の果てを探求する」という研究テーマは、人々のロマンをかきたてるのは確かなのだが、学問が先鋭化するにつれて、「果てを探求する」のに必要な研究のコストはどんどん上がっていく。その一方、「果ての探求」ほどロマンチックに見えないけど、実現すれば波及効果が大きい研究テーマというのもある。研究に投入できる資源に限りがある中で、壮大でロマンチックな研究テーマの重みがあまり大きくなってしまうと、バランスを欠くことがあるかもしれない。この点には、少し気をつけておきたいと思っている。
玉尾皓平先生は、地味なケイ素化学をずっと研究してこられた方なので、このあたりのバランスはよくわかっていらっしゃるに違いない。そういう意味で、このサンデー版の解説を玉尾先生に依頼した東京新聞は、いい仕事をしたと思います。