現代社会の「地域格差」の源を、先史時代に遡って解き明かそうとした大著です。なんて、今さら紹介するにも及びませんね。大ベストセラーになった本ですからね。
プロローグとして、ニューギニアの聡明な政治家であるネリ氏が、生物の調査で訪れていた著者に対して発した疑問が紹介されています。「ニューギニアにやってきた白人は多くのものを持っている。我々ニューギニア人は、自分のものと呼べるものをほとんど持っていない。この違いはどこから来ているのか?」この根源的な問いに対して、筆者は「作物の栽培を始めたこと」と「家畜を飼い馴らしたこと」を2つの柱にして論を進めていきます。
作物の栽培を始めたことで、人口が増加し、余剰食料を保管することができるようになる。家畜を飼い馴らしたことで、動物性タンパク質源を確保すると同時に、家畜の労働力によってより広い範囲を農地に変えることができ、より多くの人口を養うことができる。人口が多くなり、余剰食料の生産・保管ができるようになると、それを管理するための統治システムができ、情報を記録するための文字ができる。社会が複雑になり、余剰の富が蓄積するにつれて、職人や技術者などの専門職や、戦いに特化した軍人、統治システムを正当化するための宗教家などを擁することができるようになる。このようにして力をつけた社会は、周りの人間集団を侵略して勝利し、勢力を広げていく。
さらに、家畜と共に暮らすことで、その社会は動物由来の病原菌にさらされ、やがて免疫を獲得する。そうすると、その社会が侵略者となったときに、被侵略者はそれまでに出会わなかった病原菌をも敵に回すことになる。歴史上、被侵略者が病気の蔓延で大打撃を受けた例が多くある。
本書で特に興味深いのは、「作物の栽培」「動物の家畜化」について、大陸ごとに非常に異なる自然的要因があった、とする点です。作物の栽培については、栽培に適した野生種がどの大陸のどこに分布していたか。また、大陸が広がる方向(ユーラシア大陸は東西、アフリカと両アメリカ大陸は南北に広がる)によって、栽培種の広がる速度が大きく異なること。家畜化については、それに適した大型動物が、どの大陸のどこに分布していたか。一見似た動物種であっても、家畜化に適したものと適さないものがあること。つまり、ユーラシア大陸の人間が世界を席巻するようになったのは、ユーラシア大陸の自然環境によるところが大きいこと。ものすごく大きな意味で「実家が太かった」ということになるんですかねえ。なんだか切ない結論ですが。
以上はめちゃめちゃ雑なまとめで、本書は実に大部な本です。なんか、こういう超分厚い本を一人で書き切ってしまうエネルギーに、まず感嘆してしまいます。