「Forbes「世界を変える日本人」に選ばれた21歳東大生科学者 教師に否定されても研究貫いた過去〈dot.〉」(AREA dot.)。これはかなり問題のある記事ですね。取材対象の方を「天才的な若き科学者だ」と思い込んで突っ走っている気がします。「天才少年が、教師の無理解に負けずに大発明・大発見を次々と成し遂げつつある」というストーリーを作り上げている。総務省のプログラムに採択されたとか、「Forbes Japan」で紹介されたとか、そういうストーリーがどんどん先行しているんでしょうけど、「本当にそうなのか?」という批判精神をちゃんと持った上で記事を書いてもらいたいな、と思います。
まず、「教師の無理解」の話。もちろん、最初の公立小学校の「そんなことは中学校でやれ」とか「お前は(わかってても)手を上げるな」という対応は最悪で、それに対して転入した私立小学校の教員が自由にやらせてくれた、という話はよいのですよ。中学校の「卒業研究」(なんだそれ?)で、無理解な教員が実験をさせてくれなかったけど、他の教員に頼んでこっそり実験をさせてもらい、うまくいった、という話もよい。問題はそこからです。アルカリを使えば二酸化炭素が吸収できることは至極当たり前の話で、別にすごい大発見をしたわけではない。なのに、本人は「世界で誰もやってないことが実現できた」みたいな勢いなわけです。これはちょっと危ない。誰もやってないかも知れないけど、それは「地球規模の二酸化炭素問題の解決にはならない」ことがわかっているからなのです。
高校生の時の、広島大での話もちょっと変。そもそも、金属アルミニウムを還元剤として使って二酸化炭素からメタンができたとしても(面白い反応だとは思いますが)、それを「空気からエネルギーを作った」と紹介してはいけません。そのアルミニウムを作るエネルギーはどこから来たの、という話ですからね。アルミニウムの精錬は猛烈に電気を食う、というのは高校化学で学ぶ内容です。こんな空虚な「成果」を絶賛されてたんじゃあ、その研究室の卒研生はそりゃ泣きたくなりますよ。
察するに、この村木風海さんという方は、「スゴそうなこと」を「あまり科学の知識を持っていない人」に対して話して、味方につけるのが非常に上手なのだと思います。また、二酸化炭素の吸収装置は普通にちゃんと機能するでしょうから、「少しずつは成果が上がっている」というのを見せるのも上手ですね。とても頭のいい人なのだと思うけど、自然現象に対する科学的・客観的な視点や、科学史・技術史の中での物事の位置付けなどの考え方が全く欠けている(あるいは意図的に無視している)ように見えるので、「世界を変えるほどの技術上の大発見をする」可能性は極めて低いでしょう。別の有能な科学者と組んで、得意のトークでお金を集めてくれば、事業者としては成功できるかもしれません。でも、この人と仕事したいと思う科学者なんているのかな?