2019年11月24日

「あとは切手を、一枚貼るだけ」(小川洋子・堀江敏幸著、中央公論新社)

 往復書簡の形をとった、リレー小説。

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 それにしても、往復書簡なのに、小川さんの初手がこれですよ。

昨日、大きな決断を一つしました。まぶたをずっと、閉じたままでいることに決めたのです。

「一通め」(7ページ)

 どうすんだよ。返事が来ても読めないじゃないか。堀江さんはどう返すんだろう。…なるほど、そう来ましたか。それでも写真をとったりするんですね、そういえば、「目が見えなくても富士山を撮る」というような本があったな、と思いながら読み進めていくと、また小川さんがジャブを打ってくる。

この手紙は、あなたにお別れを言うために書いています。……

「三通め」(45ページ)

 この一文は、すぐ後で「アンネの日記」からの引用であることが明かされるのだけど、どきっとするよね。この一撃のあと、小川さんはまるで逃亡した容疑者の遺留品みたいに、いくつもの手がかりを撒いていく。タイプライター、鉛筆、湖、野球。

 このままだと堀江さんは防戦一方になるぞ、と思っていると、意外な方面から変化球が飛んでくる。

国際宇宙ステーションに滞在中のロシア人宇宙飛行士、ゲナディ・パダルカの、五度にわたるミッションを合計した宇宙滞在記録が八百七十九日に達し、これまで不動の一位を占めていたセルゲイ・クリカレフの八百三日を大幅に更新したという記事を見つけました。

「四通め」(69ページ)

 この変化球をとらえた小川さんの打球は、「K町にある宇宙素粒子観測施設で」二人が初めて言葉を交わした、という事実を私たちに教えてくれる。このあと、「水」は往復書簡の共通のキーワードとして、最後まで響き続ける。

 最後の二通で、哀しい秘密が明かされる。そして、いくつかの矛盾は最後まで解消されない。大きな疑問符のような余韻を残して、往復書簡は閉じられます。船舶気象情報の決まり文句が、美しいリフレインのように、いつまでも耳に残ります。

各局、各局、こちらは昼蛍村。おわり。さようなら。

「十四通め」(289ページ)

 船舶気象通報というのは聞いたことがないんだけど、かつてNHKラジオ第2放送で流れていた気象通報は、独特の味わいがありましたね。調べてみると、船舶気象通報は2016年に廃止、気象通報は同年に自動音声に変更されたそうです。

タグ:読書
Posted at 2019年11月24日 20:06:56
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