つらい過去を抱えながらも、遺品整理業者の見習いとして働く杏平。悪意のある同級生に殺意を覚えた高校時代の回想と、すさまじい現場を処理しながらも故人の尊厳を誇り高く守る先輩社員たちの仕事の様子が、代わる代わる描かれる。
感情をうまく出せない杏平に接する「クーパーズ」の人たちの視線が暖かい。著者のさださんは、モデルになった遺品整理業者の人たちに念入りに取材され、その後も交流が続いているという。杏平はそんな先輩たちに少しずつ心を開いていくが、その道のりは遅い。途中で挿入される「あかねさん」のエピソードは「泣ける」ものだが、この時点では杏平はまだ「泣けない」。それだけ大きな荷物を彼の心は背負っている。
杏平は行きつけの飲み屋のバイト「ゆきちゃん」と親しくなり、やがて彼女の壮絶な身の上話を聞く。このあたりから、物語は杏平の再生へとつながっていくのだが、読んでいて「ん?その展開でいいのか?」と違和感を覚えるシーンが増えてくる。極めつけは、件の同級生に再会して、ある言葉(タイトルが暗示している)を投げかけることによって、杏平が過去との決別を果たすところ。「えーそれでいいの、ほんとに??」と言いたくなってしまった。
著者の伝えたいことは、確かに伝わってきたと思う。でもそれは、最後の一番肝心なところで、文章の力というよりは、さだまさしという人物の力を借りて、ようやく伝えられたところがある。ヒューマニズムにあふれるさださんの人柄に魅力を感じている人は(私もそうだが)、この小説に深い共感を持つだろう。そうでない人には、あんまりおすすめできないかな、と思った。
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