2025年02月27日

「百年と一日」(柴崎友香著、ちくま文庫)

 不思議な感覚の短編集です。

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 一冊通して読んだ後も、なにか不思議な感覚が抜けないまま、深緑野分さんの解説まで読みました。解説の中で、著者の柴崎さんがこの連載について、「時間が経つ話が書きたいんですけど」と言われた、とあって、ようやくこの「不思議な感覚」の正体が腑に落ちた気がしました。それぞれの短編は文庫本で8〜9ページぐらいの長さなんだけど、その中でかなり長い時間が経過する。たいていは中心的な人物の人生の中に収まる長さだけど、「祖母の祖母」の時代にまでさかのぼる話もある(「初めて列車が走ったとき、祖母の祖父は羊を飼っていて、彼の妻は毛糸を紡いでいて、ある日からようやく話をするようになった」、本書202ページ)。ちなみに、この「……」は短編のタイトルです。ほとんどの短編に、このような長いタイトルがついています。

 本書の中程に、「その人には見えている場所を見てみたいって思うんです、一度行ったことがあるのに道がわからなくなってしまった場所とか、ある時だけ入り口が開いて行くことができる場所のことを考えるのが好きで、誰かが覚えている場所にもどこかに道があるんじゃないかって、と彼は言った」という題名の話があります(125ページ)。この話は特に不思議です。女性の小説家が遠縁だという老女から昔の写真をもらい、のちに娘がその写真を持ってその町を訪れる、という話なのですが、題名にある「彼」が誰のことなのか、よくわかりません。後半に登場する「この町の最後の子供」なのかな? 題名で「彼」が「言った」とされる内容も、この話のどことどう関係しているのかよくわかりません。

 きっと、わからなくてもいいのでしょう。私はどちらかというと、ちゃんと「答え」がわかる話が好きで、こういう「答えを出さないまま放置する」小説は読み慣れていません。でも、読み慣れていないから好きじゃないか、というとそうでもなくて、途中で離脱もしなかったし、こうやって何とか感想っぽいことを書こうともしています(何を書いていいのかわからなくて戸惑っていますが)。柴崎さんの他の作品も、そのうち読んでみようと思います。

タグ:読書
Posted at 2025年02月27日 00:08:07
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