2024年07月29日

「国民は知らない『食料危機』と『財務省』の不適切な関係」(鈴木宣弘・森永卓郎著、講談社+α新書)

 これは面白かった。一気読みしました。

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 日本の農業政策に物申し続ける農学者、鈴木先生が、大ベストセラー「ザイム真理教」著者の森永先生を迎えて、今ここにある日本の危機について熱く語ります。鈴木先生は、「まえがき」でいきなり本題にずばりと斬り込んできます。

少々コストが高くても、国内でがんばっている農家をみんなで支える。それこそが自分や子どもたちの命を守る一番の安全保障なのだ。
安全保障の要は国産の食料を確保することである。

「まえがき 鈴木宣弘」(本書4ページ)

 ところが、食料生産を一手に担う農業従事者に対して、国は何をしようとしているか。今の農業政策は、こんな方向に行ってしまうのです。

専業農家に加えて企業の参入を促進する方向が打ち出されているのです。
企業の参入を優先すればどうなるか。各地域に、目先の効率を追う農業だけが残っていく。それで企業は儲かるかもしれませんが、地域の生活は破壊されるかもしれません。

(本書32ページ)

 現在の政策はすべてそういう方向に行ってしまう。本書の書名では「財務省」が問題視されていますが、経産省も大概だと思いますね。この方々は、本来は「公僕」として、産業界の論理とは独立した立場で、「この国をうまく運営していくためにはどういう方策が望ましいか」を追求しなくてはならないのに、産業界と一体化してしまっている。産業界は献金を通じて政治家を動かし、政治家は人事権を通じて官僚を動かし、官僚は退職後の天下り先を確保するために産業界の事情を最優先で考える。こんなもたれあい構造があっては、そりゃ良い方向になんか行くわけがない。

 私たちに何かできることがあるのか? お二人が提案するのは、消費者行動を通した農業従事者への働きかけです。一つは、「もっとコメを食べよう」。農水省は、2006年のレポートで、米食中心に食生活を戻せば、それだけで食料自給率が63%まで上がると試算しているそうです(本書91ページ)。もう一つは、地方で始まっている「生産」と「消費」の新しいシステムです。和歌山県の直売所「よってって」の話(本書166ページ)は、私も報道で見たことがあります。また、地元の有機農業食材を給食に利用するいすみ市の試みも、中日新聞で取り上げられていました。

 森永さんは「マイクロ農業のすすめ」という本を書かれています。自分で食べる分の野菜は自分で作る、と。本書でも、お二人のこんなやりとりがあります。

森永 日本経済の仕組みを変えるだけじゃなくて、日本の消費者の考え方を根本から変えないとダメだと思うんです。

鈴木 そのために、まず自分で農業をやってみようという。

森永 プランター1つからでいいので。やる気になれば簡単にできるんですよ。

(本書39ページ)

 ところで、本書で鈴木さんが批判的に書かれている「今だけ、金だけ、自分だけ」という言葉は、現在の日本を象徴的に表す言葉で、たいへん印象的です。原典は誰なんだろう?と気になって、少し探してみました。

  • 2020年の映画「天外者」の田中光敏監督「今の時代、『今だけ、金だけ、自分だけ』という考えの人たちが世界や日本にも増えているのでは」(出典:福井経済新聞 2020/12/17 記事
  • 2013年の毎日新聞によるジャーナリスト堤未果さんへのインタビュー(有料記事)。堤さんの本の書評にもこの言葉は頻出しているので、どこかの本に出ているのだと思うけど、未確認。堤さんの本はまだ読んだことがないのです。
  • 2013年の鈴木宣弘著「食の戦争」の中にこの言葉があって、「池田整治氏の『 今、「 国を守る 」ということ 』(PHP研究所 2012年) よりヒントを得た」と書かれているそうです。(出典:「オレンジ色のスケッチ」2024/2/19

 今のところは、池田整治氏の「今、『国を守る』ということ」までたどれていますが、堤さんの方が先かもしれない。キャッチーなフレーズなので、最初に言った人は特定しておきたいですね。

タグ:読書 社会
Posted at 2024年07月29日 23:00:41
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