中島敦の名作(?)「文字禍」を一文字変えたタイトルで、ほかでもない円城塔氏の作品。何か仕掛けがあるんだろう、と思って手を出したら、これはなかなか難物でした。
「文字」を巡って、古代中国やら、現代の文字コードやら、広大な守備範囲で物語が飛び回る。不思議な漢字が次々と登場する。「予」の逆向きの「𠄔」(U+20114)は柳瀬尚紀氏の著作で「『幻』の本字」と知っていたけど、そのほかは全然知らない字ばかりだった。
書名にもなった「文字渦」のように、普通の小説っぽいものもあるが、まるで架空の論文のような作品もある。文字を使って「文字」を描くことから、自己言及的な文になっていることも多くて、ダグラス・ホフスタッターのコラムに出てきた「自己言及文のみで書かれた小説」のような奇妙な感覚がある。「誤字」でルビが勝手に物語を編んでいく様子は、自分を改変しながら増殖していくプログラムコードの挙動を思わせる。
「天書」で描写されているのは、明らかに「スペースインベーダー」ゲームなんだけど、円城氏ってリアルタイムでスペースインベーダー知ってるのかな。また、「闘字」のバトルの描写がポケモンカードゲームそっくりだというのは、巻末の解説を読んで初めて気がついた。なんとなく既視感があるな、とは思ってたんだけど、読んだ時には気づかなかったな。
他にもあちこちに仕掛けがありそうだけど、一度読んだだけではなかなかわからない。しばらく放っておいて、また読み直してみたら、新しい発見があるんだろう。そんな本に久しぶりに出会ったな、と思いました。
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