ガザ地区研究の第一人者、サラ・ロイ氏の著作に、日本でのパレスチナ研究者3人がそれぞれの論考を付け加えた労作です。
同じメンバーで、「ホロコーストからガザへ」という本もあります。こちらも価値の高い本です。
これらの本について語るにあたって、サラ・ロイ氏の唯一無二の立場について知っておくことは重要です。サラ・ロイ氏はアメリカ在住のユダヤ人であり、ホロコースト・サバイバーの子孫です(父親が強制収容所からの生還者)。ロイ氏の「ガザ回廊 (The Gaza Strip)」という著作は、ガザ占領の総体を分析した最も信頼できる研究書として、専門家の間で高く評価されているようです。
ロイ氏は、ガザ地区に関するイスラエルの戦略について、「反開発 (De-development)」という概念で表現しています。ガザ地区の封鎖が始まって以降、ガザ地区は発展を禁じられるだけでなく、生計を立てる権利も、ガザ地区内部を移動する権利でさえ、否定されています。ガザ地区の経済活動はイスラエルに完全に依存するように仕組まれており、支援国からの人道支援すら、最終的にはイスラエルの収奪の対象になります。
現在、イスラエルのガザ地区への攻撃は、学校・病院など、生活を支える基盤設備が標的になっています。イスラエル政府の最終的な目標が「ガザ地区をパレスチナ人が生存できない状態に追い込む」ことであることは、さまざまな文書により明らかにされています(ロイ氏の著作には非常に多くの参考文献が付されています)。一つの民族を丸ごと消滅させて、その土地を奪う、という非道な振る舞いが、イスラエルの狡猾な外交戦略を通して、この現代で黙認されるに至ったプロセスを、読み取ることができます。
私たちはどういう立場をとればいいのでしょうか。今からでも、イスラエルの戦略に絡め取られてしまったことを自覚・反省して、この著しい不正義をただすための行動をとらないといけないのではないか、と思います。
パレスチナの人々については、どのような姿勢で臨むことがよいのでしょうか。少し古い記述ですが、サラ・ロイ氏の「ガザ回廊」第三版あとがき (2015年) にある以下の文は、記憶に留めておく価値があると思います。
ガザ地区の人びとは外の社会との接点を切望している。自分たちの大義に共感する段階なら、イスラエルやアメリカやEUの団体とであれ関係性を築きたいと強く願っている。ただし彼らが、世界の一員になりたいと考えるとき、それは恩恵を受けるだけの存在としてではない。自分自身を立て直すことに対する中心的で重要な役割を担う参加者として扱われなければならないし、彼ら自身もそう扱われることを求めている。
本書235ページ
2023年10月7日以降、ガザの現状はこれよりもずっと困難になり、ガザに住むパレスチナ人の絶望は深まっています。「反開発」の動きを逆転させることが可能なのかどうか、もはやわかりません(ロイ氏は、以前は「可能である」という立場だったようですが、現在はどうなのでしょうか)。しかし、こんな非道を許してはいけない、という考えを持ち続け、機会があれば表明することは、私たちそれぞれがやっていかないといけないことではないかな、と思います。

