2022年06月26日

「朝日新聞政治部」(鮫島浩著、講談社)

 話題の本です。ほぼ一気読みしました。


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 これは、鮫島氏自身の「栄光と転落の軌跡」を描いた本です。本の帯に「崩壊する大新聞の中枢」と大きく書かれており、朝日新聞社の組織論が主題になっているように見えるけれども、そこまで普遍性を持つものではない。描かれているのは、朝日新聞社の「特別報道部」があるきっかけで創設され、そこで鮫島氏が「自由な新聞記者」としての手応えを得たこと、異動を経て特別報道部に戻った鮫島氏が原発事故の調査報道で大活躍したこと、しかしネット世論に屈した朝日新聞社が鮫島氏らを切り捨てたこと、その後は自社への批判を許さない閉塞的な組織になってしまったこと、である。

 政治が好きな人にとっては、むしろ本書前半の政治部記者としての奮闘ぶりが印象深いかもしれない。私は政治の世界に全く疎いので、このあたりはかなり退屈だった。ただ、自民党の経世会・宏池会・清和会の関係について述べたくだりは興味深かった。もう少し掘り下げて知っておいた方がよさそうだ、と感じている。「現代の日本政治を知るための一般教養」として、ライトな層にも届くように、提供してもらえるといいなと思う。

 後半の「転落」の部分で、鮫島氏は、吉田調書がネット世論からのバッシングに会ったとき、ネットの世界についてあまりにも無知だった、と述べている。このくだりを読んでいて違和感を持ったのは、同じ時期に特別報道部が関与した「プロメテウスの罠」と「手抜き除染報道」についても、ネットで激しいバッシングがあったと思うのだけど、何も触れられていないことだった。特に「手抜き除染報道」については、鮫島氏自身も関わられたようだから、何らかの見解を示されてもよかったんじゃないか。

 全体として見れば、本書は新聞社の「変容」に立ち会った当事者の貴重な証言と位置付けられる。ここから「組織論」を組み立てていくためには、また別のアプローチが必要になるのだろう。特に、現在の大手メディアが権力に取り込まれていく過程は、もっと広く認知されないといけない。鮫島氏を初めとして、「元・大手メディアのジャーナリスト」が今後そういう役割を果たしてくれると期待しています。

タグ:読書 社会
Posted at 2022年06月26日 10:15:50
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