NHK教育テレビ「芸術劇場」で「ヴォツェック」を見た。この曲の舞台を見るのはテレビでも初めて。新聞のテレビ欄には「斬新な演出」と書かれていたけど、なんせ初めてなのでどこが斬新なのかはよくわからんかった。素人目に目立ったのは子供の演出で、ちょっとすれた感じで浮気性の母親を憎んでいるような設定だった。逆にヴォツェックと子供のつながりが最初の場面から繰り返し描かれている(第1幕第1場や第4場にオリジナルでは出てこない子供が登場する)。もともとこの作品は何とも救いのない内容で、子供の何も知らない無邪気さがわずかな救いになっているようなものなのだけど、子供をこう描くとちょっと解釈が変わってくる。つまり、マリーは徹底的に性悪女で、逆にヴォツェックは愚かだが同情の余地がある男、という風に見えてくる。これはなんだか男性中心的な古めかしい解釈だな。斬新な演出というのはこういうところじゃないんだろうな。
歌手陣は熱演だった。主役の2人はもちろんよかったし、医者の妻屋秀和さんが怪しげないい味を出してました。第1幕第4場でヴォツェック相手にまくしたてるところ、めちゃくちゃ早口のドイツ語をしっかり繰り出してましたね(実は高校の頃、ここのせりふが面白くて一所懸命覚えた。まだ半分ぐらい覚えてるぞ)。ちなみに、ここの「くしゃみせき (husten)」が「小便 (pissen)」に変わってた。医者の無茶ぶりがいっそう強調されて面白い。
オケは東京フィルが丁寧に鳴らしてくれた。相当ごちゃごちゃしたオーケストレーションだけど、よくまとまっていたと思う。第2幕第1場の終わりとか第4場の終わりはもっとはじけて欲しかったけどね。あと、第2幕第4場のステージ上の楽士さんたち、真ん中に陣取ってるのに、「ワタシはオケの人ですからねー」と澄まし顔でお行儀よく弾くのはちと変な感じだったな。歌手のみなさんと同様ケバいメークと怪しげな服装で出たら面白かったのに。