発売当初から大反響だった、中日ドラゴンズ・落合博満監督の8年間に迫ったドキュメンタリー本です。
「文春オンライン」で内容のかなりの部分が紹介されていたので、たぶん半分ぐらいは読んだことのある文章でした。改めて一冊を通読してみると、著者が「駆け出しの記者」時代から中堅記者としての立場を確立するまでの時期と、落合監督の在任期間とが、ちょうど重なっていることがわかります。先輩や他社の記者たちと群れるのではなく、一人で落合監督と向き合おうとする著者の姿に、落合監督は共感を持っていたのかもしれないな、と感じました。
本書のエピソードで私が好きなのは、小林正人氏と、荒木雅博氏の章です。小林氏の章には、落合監督はあまり登場しません。どちらかというと、森投手コーチの存在が大きい。ただ、救援に失敗してベンチに帰ってきた時に、落合監督が「相手はおまえを嫌がっている」と話したことが小林氏の気づきにつながった、というくだりは面白い。
荒木氏の章では、逆に落合監督の存在感が目立っていました。
荒木が二十失策したシーズン、チームは四年ぶりにリーグ優勝を果たした。守備の要であるショートがそれだけのエラーを犯したにも関わらず、守りの野球は崩壊しなかった。
自分(引用者注:荒木)や周りの人間には見えていなくて、あの人にだけ見えているものがある……。
本書426ページ
その答えは、著者によって、この章の終わりの方で明かされます。井端氏と「アラ・イバ」とひとくくりにされることが多い荒木氏ですが、落合監督の視点では、どうも荒木氏の方が評価が上のような印象ですね。落合氏がGMとしてドラゴンズに戻ってきた時、井端氏はずいぶん冷たい扱いを受けていたことを思い出します。
そしてもちろん、語り尽くされた感のある日本シリーズでの完全試合の継投。本書では同僚投手の川上憲伸氏と岡本真也氏、打撃コーチの宇野勝氏の視点が加わって、より味わいを増しています。さまざまな角度から見ると、「あの場面の岩瀬」の凄さがいっそう浮かび上がってきますね。文庫版で追加された章で、岩瀬氏自身の回想が語られます。
あの八回裏、ブルペンに登板を告げる連絡が来た瞬間、胸の奥にかつてない恍惚が存在した。
<ありましたよ、やっぱり。この状況で自分をいかせてくれるんだ、と思いましたから。信頼って強いですね……。信頼されているからできることってあるんです>
本書526-527ページ
少し戻って、本書本体の末尾付近に記される、落合氏が最後にリーグ優勝を遂げる直前の、坂井球団社長への突撃インタビューが秀逸です。落合氏解任直前の有名なエピソード、「ジャイアンツ戦に敗戦した直後に球団社長がガッツポーズした」という噂の真偽を問うたものです。著者はその時の事実のみを記し、噂の真偽は判定していませんが、余韻の残る一節です。
