2024年09月19日

「ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義」(岡真理著、大和書房)

 ここしばらく、ガザ地区の状況があまり報道されていないように思います。その間に、この本で勉強していました。

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 著者の岡真理氏は、アラブ文学とアラブ世界思想の研究者です。パレスチナ問題について精力的に活動をされています。社会・政治という視点よりは、パレスチナの「人」に寄り添う視点を強く感じるのは、岡さんが文学の研究者であることと関係しているでしょう。

 本書は、昨年10月に京都大学と早稲田大学で行われた緊急講演会の内容を記録したものです。受け止めるべきメッセージは多数あって、簡単に要約する言葉を私は持っていませんが、特に印象に残った部分を書き留めておきたいと思います。

 「イスラエルも悪いがハマースも大概だ」という「どっちもどっち」論は正しくない。2008-2009年のガザへのイスラエルの攻撃について、国連の調査により「双方に戦争犯罪は認められるけれども、イスラエルの方が圧倒的である」と結論づけられました。「どちらも悪いからおあいこだ」ではない。「良いか、悪いか」というゼロ/イチの話ではなく、「悪い度合い」というのがあって、その点で言えばイスラエルの方が圧倒的に悪い。イスラエルに対して批判する時、「でもハマースだって悪いじゃないか」と反論されると、思わず怯んでしまうことがある。でも、「悪さには度合いがある」という(当たり前の)ことを考えれば、ハマースの「悪さ」によってイスラエルの「悪さ」が帳消しになるわけではない。これは、本当に気をつけないといけない点だと思います。

 「ハマースとは何か」とよく聞かれるが、本当に問わないといけないのは「イスラエルとは何か」だ。イスラエルは入植者による植民地国家であり、パレスチナ人に対する人種差別を基盤とするアパルトヘイト国家である、と認識すること。イスラエルによる民族浄化は、第一次中東戦争の時の「ナクバ」にさかのぼりますが、この時に何が起きたかはすでに歴史の範疇に入っており、見方が分かれる可能性もあります。当事者国家による歴史改変もあり得るでしょう。しかしながら、少なくとも「現在の」イスラエルがガザで行っていることは、民族浄化を目的とするジェノサイドとしか解釈しようがないと思います。また、ヨルダン川西岸地区で国際法に反して入植を続けている背景にも、パレスチナ人に対する人種差別があるとしか考えられない。

 なお、国連総会で9/18に採択された「イスラエルの占領についての国際司法裁判所の歴史的な判決(今年7月)を同国が遵守することを求める決議」に日本も賛成したそうです。G7ではフランスと日本が賛成、米国が反対、残りは棄権。

タグ:読書 社会
Posted at 2024年09月19日 22:58:33
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