組織論として著名な本です。表紙には、実業界(柳井正氏)、学術界(津田雄一氏)の著名人による推薦の言葉が書かれており、「日本的組織の病理」を読み解く書として、手に取られていることがわかります。

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私はこの本で、組織についての一般論ではなく、「日本軍」がどのような指針の元に、どのように行動しようとしていたのかを知りたいと思いました。失敗した作戦の分析について学ぶことで、「実際にはどのように動くべきだったのか」が読み取れ、そこから80年前のあの戦争についての理解が、少しでも深まるのではないかと思ったのです。
読後の感想を言うと、まだ「戦争」一般や太平洋戦争そのものについての知識が自分に足りなすぎて、消化不良にしかならなかったな、というところです。恥を忍んで、感想めいたことを書いておきます。
「ノモンハン事件」:ソ連・外モンゴル・満州の国境をめぐる紛争で、日本軍にとっての「最初の大敗北」(38ページ)でした。現地の関東軍と本国の大本営との間の意思疎通の不足が大きな要因だったとされていますが、「観念的な自軍の精強度に対する過信」が蔓延していた(62ページ)、という点も見過ごせません。また、「日本軍は生き残ることを怯懦とみなし」、生き残った連隊長・部隊長等が自決することで「高価な体験をその後に生かす道を自ら閉ざしてしまった」(66ページ)ともあります。いわゆる精神論が、最悪の形で出てしまった格好です。
「ミッドウェー海戦」「ガダルカナル作戦」:海戦・陸戦のそれぞれターニングポイントであった、とされています(70, 107ページ)。共通するのは、「情報力軽視」「科学的思考方法軽視」のようです。また、海軍の「ダメージコントロールの欠如」と陸軍の「兵站無視」には、共通の土壌があるように感じます。要は、先制奇襲に成功したら、あとは「現場が頑張ればなんとかなる」という、これもまた根拠に乏しい精神論です。
「インパール作戦」「レイテ海戦」はひとまず措いて、「沖縄戦」です。本書を通じて、日本軍の前線で兵士たちは「勇敢に戦った」と讃えられています。そして、沖縄戦においても、現地第三二軍について、「将兵は沖縄県民と一体となり、死力を尽くして八六日間に及ぶ長期持久戦を遂行し、米軍に多大の出血を強要してその心胆を寒からしめた。敗れたりとはいえ第三二軍は、米軍に対し日本本土への侵攻を慎重にさせ、本土決戦準備のための貴重な時間をかせぐという少なからぬ貢献を果たした。」(222-223ページ)と記されています。これは、東京の大本営から見た本土防衛の観点としては、その通りなのでしょう。しかし、軍人と民間人が「一体となって持久戦を遂行した」と、何の迷いも無く書かれていることに、強い違和感を持ちます。
本書は、あくまでも日本軍の組織論なので、特定の作戦について、その戦略の是非を論じるものではないし、「軍と民間人と一体となって国土を防衛する」という考え方について論じるものでもありません。それは別のところで論じられるべきものです(そういう勉強もしたいと思っています)。ただ、沖縄戦については特に、この点の公式な総括は不十分だと感じます。ここにも、「科学的思考方法の軽視」が拭い難く残っています。これを乗り越えなければ、この国に未来はないだろうな、と思います。