2015年09月04日

「ペンギン・ハイウェイ」(森見登美彦/角川文庫)

 「四畳半神話体系」「聖なる怠け者の冒険」に次いで三冊目。今回の舞台は京都ではなく、(たぶん東京近郊の)新しい住宅地である。主人公のアオヤマ君はちょっと背伸びした小学四年生の男の子。身の回りのことを観察しては克明にノートにつけ、「研究」を気取っている。解説の萩尾望都さんは「日本文学の中で…アオヤマ君のタイプは初めて見た。」と書かれている。確かにそうかも知れない。文学を目指す人のアンテナには引っかかってこない(あるいは興味を惹かれない)タイプの子供なんじゃないか。端からみたらなんだかイヤな奴だしな。森見さんが少年アオヤマ君を見事に、かつ愛情を持って、描いているのは、自分がかつてこういうタイプの少年だったからなのだろうか。いじめっ子のスズキ君(萩尾さん曰く「典型的な少年モデル」)に水泳の授業中プールの中でパンツを脱がされたあとのエピソードが痛快。思わず快哉を叫んでしまった。

 一見「謎解き」風の構成だが、最後まで読んでも「謎が解けた」という爽快感はない。幾多の不思議な出来事は、あまりちゃんと説明されないままに終わってしまう。むしろ、アオヤマ君のお父さんが示唆したように、この謎は解けない方がよかったのかも知れない。しかし、この「研究」を通して、アオヤマ君は思いがけず、ちょっぴり「人として」の成長を果たす。謎解きの爽快感の代わりに、「血が通い始めた」ような温かな読後感だった。

タグ:読書
Posted at 2015年09月04日 00:25:52
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