2015年08月02日

「ねにもつタイプ」(岸本佐知子/ちくま文庫)

 岸本佐知子さんは翻訳家。実は岸本さんの翻訳した小説を読んだことがないため、このエッセイ集が初読である。エッセイ? 分類としては確かにエッセイなのだろうけど、一人称の短編小説のようでもあるし、何か不思議な味わいがあって、やみつきになる魅力がある。

 この本の「エッセイ」の中で、とりわけ秀逸というか、呆気にとられてしまったのが「リスボンの路面電車」。ポルトガルの街並みを見事に活写した最初の1ページが終わると、突然次のページで「などと考えていたら、ある日とつぜん都が穴を設置すると発表した。」という一文とともに場面が変わり、そのままこのエッセイはついにリスボンに戻ることなく終わってしまう。あまりの展開に動揺して、落丁じゃないのか、とページノンブルを確認するが、路面電車のページは 108、都が穴を設置するページは 109 なので、ちゃんと連続している。この置き去りにされた感は、著者が狙った効果なのだろうか。それとも、「あ、原稿送り間違えちゃった、まあいいか、締め切り3日も過ぎてるし。」みたいな事情による偶然の産物なのだろうか。などと考え込んでしまうあたり、すでに著者の独自の世界に引きずり込まれているのかもしれない。

タグ:読書
Posted at 2015年08月02日 22:05:20
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